神奈川大学オープンキャンパス2014 スペシャルコンテンツ

2014年の夏に開催された神奈川大学オープンキャンパス。電気電子情報工学科では各研究室を実際に見て触れられる『研究室見学ツアー』を実施しました。ここでは見学ツアーで説明しきれなかった研究や、研究室にまつわるエピソードを紹介します。

機械が人間のコミュニケーションを支援する

工学の世界で「コミュニケーション」というと普通は「通信技術」と受け取られることが多いのですが、私が研究しているのは人間同士のコミュニケーションのことです。それをコンピュータによってどうサポートできるかを研究しています。当研究室は今年で13年目になりますが、それ以前もNTTの研究所で同じようなコミュニケーションの研究をしていました。研究所時代はコンピュータに人間の言葉を理解させるため、言葉の意味の近さについて検討しました。人間なら例えばネコとイヌは似たような動物だとすぐ分かりますが、コンピュータに膨大な数の言葉すべてについて他の言葉と似ている/似ていないを理解させるのは大変です。このため、言葉の意味に関する巨大なデータを持った概念ベースという仕掛けを創り上げました。こうした研究の宣伝のため「B級機関」というダジャレを永遠に自動生成するマシンを製作したところ、これが大層な評判になってしまいました。実はダジャレは意味の近さではなく音の近さを利用しているので、本当は当時の研究とは直接の関係はありません。ところが、コミュニケーションにおいては音の近さというのも重要な要素だと考えるようになりました。

ネコが寝ころぶ、といった言葉の響きが自然にもたらす連想も、人間の思考においては色々な役割を果たしています。神奈川大学に来てからの研究では、かつての概念ベース研究に基づいた言葉の意味の近さを測るツール「類神具」だけでなく、音の近さの測定ツール「駄洒連具」の開発にも取り組んでいます。そしてこれらを組み合わせて、ニュース原稿の意味を損なわずリズムを整え伝わり易くするニュース歌詞化システムや、諺とゴロを合わせて印象を強めるタイトル生成法など、機械による様々なコミュニケーションの支援サービスを提案し実現しています。

Image  Engineering  Laboratory
学生のアイデアがコミュニケーションの可能性を広げる

コンピュータに人間の言葉を理解させる技術は自然言語処理と呼ばれ、様々な研究が行われてきました。昔は文を単語に分けたり、品詞を判断したりといった言葉の形式的な処理が中心だったのですが、次第に言葉の意味にまで踏み込んだ扱いが出来るようになり、またコンピュータの性能も飛躍的に向上して、以前では思いもよらなかった知的な処理が可能になって来ました。例えば、最近ではコンピュータが文章の要約をまとめたり、新聞記事を基に人間の色々な質問やクイズに回答できるようになっています。東大の入試問題を解かせようという研究プロジェクトまであります。しかし、コンピュータが言葉を理解することによって人間のコミュニケーションをサポートできる可能性は、まだまだ数多く広がっていると思います。私は人間の持つ現在の気持ち、今に至る過去からの物語、未来に向かって進む意志といった非常に人間的な事柄の支援までも、コミュニケーション工学の対象と考えています。

こうした研究には従来の常識に捉われない斬新なアイデアが重要で、若い学生さんの自由な発想には大いに期待しています。プロ研究者の感覚ではとても実現できそうもない奇抜なアイデアでも、面白い発想をした学生と討論を重ねるうちに意外な実現法/解決策にたどり着くことがあります。私にとってこうしたアイデアとの出会いは非常に大きな刺激になっていて、大学に来て一番面白いと感じるところです。プロ研究者が揃って効率優先で進めている研究所のような環境とは違い、素人っぽい発想を大事にする研究ができることが大学の魅力ですね。私の研究室の卒業研究は原則として学生自身が研究テーマを発案することになっています。最初は無理無茶なアイデアでもそれを一緒に根気よく検討することで、学会でも関心を集めるような素敵なアイデアがたくさん生まれています。

Image  Engineering  Laboratory
教育とコミュニケーションの未来

コミュニケーションの研究をしている理由のひとつとして、研究で得られた知見を大学の教育に活かしたい、ということがあります。従来の大学教育にありがちだった大教室での一方通行の講義形式は今日では何かと批判の対象になっており、学生主体で演習を進めるPBL(Project Based Learning)形式や、自主学習の成果確認を主体とした反転授業など、より学生とのコミュニケーションを重視した教育形態が注目されています。私の授業でも以前から、毎回の演習用紙への様々な書き込みに対して次回授業で回答するリクエストタイム等、受講生との意思疎通を図る様々な工夫を取り入れて来ました。今後はさらにブログ、Twitter、LINEといった最近の学生に馴染み深いSNS系コミュニケーションについて、授業に取り入れたり研究対象として新しい利用法を検討して行くことによって、学生との一体感ある大学教育を実現出来たらと考えています。また、近頃はコミュニケーションに対して非常に苦手意識のある学生が増えてきているようです。その一方でSNSのようなネットを介したコミュニケーションにのめり込み過ぎていたり、逆に疎外感を感じてしまう学生も多いようです。

本来は人々の間のコミュニケーションに役立つために開発されたはずのインターネット技術/通信技術が、かえって人間の意志疎通の障害になっては意味がありません。技術の問題は技術で解決するのが工学者の使命です。コンピュータの助けを借りて、大学教育やネット社会におけるコミュニケーションをより豊かに人間味あふれるものとするため、コミュニケーション工学を発展させていきたいと考えています。

コミュニケーション工学研究室 コミュニケーションをより豊かに