神奈川大学オープンキャンパス2014 スペシャルコンテンツ

2014年の夏に開催された神奈川大学オープンキャンパス。 電気電子情報工学科では各研究室を実際に見て触れられる『研究室見学ツアー』を実施しました。 ここでは見学ツアーで説明しきれなかった研究や、研究室にまつわるエピソードを紹介します。

画像工学の歴史と目指す未来

当研究室は今年で33年目を迎えます。私は学部生として2年目から所属しており、そのまま修士に進み、卒業後も現在に至るまで画像処理の研究を続けています。所属した当初に取り組んだ研究は画像工学の一部である「画像の符号化」でした。「画像の符号化」というのはJPEGやMPEGといった画像や動画の規格を決めるための研究で、当時の限られたスペックのコンピュータでデータを扱うには、できる限り小さいサイズにできる符号化が求められていたのです。当時はまだ規格も決まっておらず、さまざまな方式が研究されていました。ところが、符号化の規格というのは一度決まってしまうと、なかなか新しい規格を作ることができません。JPEGなどの規格が決まった後は、「画像の符号化(データサイズの縮小)」が理論上の限界に近づいてきたことと、ハードのスペックが向上したことで大きなサイズのデータも扱えるようになったため、きれいな画像にする補正技術や画像を復元する技術が求められるようになったのです。

そこで、それまでに培ってきたノウハウを元に、昔の古い写真をきれいにしたり画像をより鮮明にする研究にシフトし、近年では映像の復元の研究にも取り組んでいます。これらの研究は歴史的写真の修復や映像の復元など、社会的意義の高いものとして注目されています。特にデジタル化された現代だからこそ、アナログ時代の遺産を伝えることも使命かもしれません。映像の復元には、疎表現理論という理論を用いていますが、これは人の脳が細かく認識できない(しない)ことと同じことをコンピュータで表現するための理論で、荒い映像も復元されるときれいに見せることができます。この研究は特に暗視映像を対象としていて、監視カメラなどの画質の悪い映像の解析(人の服装や顔を特定する)に転用されています。ポイントは人間の脳の仕組みをコンピュータで再現するところです。つまり脳の中での信号処理をコンピュータで擬似的に行っているのですが、それをどこまで本物に近づけることができるか。私たちの研究の当面の目標は商品という目に見えるかたちでの製品化ではありません。様々な技術やサービスの幅を広げるための「脳のメカニズムの解析と機械化」に挑戦していきたいと思っています。

Image  Engineering  Laboratory
画像工学と数学が支えるハードウェアの進化

時代とともにハードウェアのスペックが向上し、ハイスペックな研究設備を持つメーカーの研究所ではなく、大学の研究室でも研究できる範囲が広がってきました。現在ではデジカメも一般的に普及したこともあり、画像・映像の取り込みも簡単になり、研究の環境は整っています。当研究室でも自作のコンピュータや安価な測定装置を用いて研究を行うことができているので、研究に対する敷居も下がってきています。一方で、研究内容が高度化・複雑化していることにより、コンピュータ上で画像処理を行わせるための公式やプログラムを表す数学が難しくなっているという問題があります。特に応用数学の分野からの研究者が増えてハードルが上がっているのも事実です。数学が難しいため理論を理解するのが困難という学生も増えています。

当研究室には画像工学分野を研究し続けてきたノウハウがあるのですが、数学でつまずいてしまう人が多いですね。画像工学に限った話ではありませんが、数学は工学を学ぶ上で重要な学問に違いありません。デジカメと言えば、現在は誰でも持っているようなスマホや携帯電話でも気軽に撮影できるようになり、昔に比べるとハードウェアの進歩はすごいと思います。特に昔は大型のコンピュータで数十分かかっていた画像の符号化が、現代ではスマホなどで撮影した瞬間に行われているのです。当時はこのような技術が一般化するとは思えませんでした。ハードウェアが進化できるのも、それを支えるソフトウェア開発という画像工学の研究の成果の一端なのです。

Image  Engineering  Laboratory
研究に秘める夢

画像工学の研究をしていて嬉しいと思うことは、新しいアルゴリズムを発見した時、そしてそれが上手くいった時ですね。たとえ上手くいかなくても、上手くいくように試行錯誤するのも楽しいと感じます。将来、画像工学を研究してみたいと思っている学生にも、こういったプログラムを作って楽しんでほしいと思います。今の学生が取り組んでいるのは基本的に既存のプログラムを用いたシミュレーション実験やアルゴリズム評価が多いのですが、昔と比べてプログラムを得意にする人が少なくなった印象があります。画像工学は電気的な知識はそれほど必要ではなく、線型代数学を理解していれば学べる分野です。研究というものは自分自身が切り拓くといった姿勢で取り組み、研究対象や視野を広げることも大切です。特に今後は数学的なソフトウェアに対する見識だけでなく、ハードウェア的な見識も求められてきます。4Kテレビなどの表示デバイスの発達に伴った映像撮影技術や映像処理技術はもちろんですが、きれいなものをきれいなまま撮影するといったカメラは、撮像素子の密度(解像度)やコストといった面で、性能の限界が近づいていると思っています。

そうした問題をソフトウェア的に解決する、新しい撮像方式を実現させることが研究室としての目標、研究者としての夢です。必要最低限の情報を記録し、研究の成果を用いて元の画像を復元させることができれば、ハードウェアの物理的な制限を取り払うことができるのです。それらが実現できれば、例えば、医療関係のX線やCTによる撮影も、少ない線量で撮影して画像を補正することで放射線被曝を減らすことができます。また、内視鏡による撮影も制限が緩められれば、肉体的負担を減らすことができるのです。このように、私たちの研究はどんな場面で活かされるのか、まだまだ未知の部分が多々あります。そうした中で、未来の技術革新のためにも研究を続けていきたいと思っています。

画像工学研究室 超高品質デジタル映像時代の基盤を築く